ドリアン
ドリアンなんて、大っ嫌い、と言い切ることが出来れば、どんなに楽なことか。ドリアンは、みんな、くさいとかいうけどね、あたし好き、大好き!と言えたなら、どんなに素晴らしいことか。
ドリアンを、あれば、食べるし。なければ、食べない。
ジャカルタにいた時、住んでいた場所から細い道を少し歩けば、大きな道に出る、そして、おれが出た場所から道を挟んだそこにはドリアンの屋台があった。
ドリアンが大量に積み上げられていて、山を成していた。側に、赤いビニールシートがかけられた、薄い木の机と、細い足のプラスチックの椅子が並べられていて、そこで、店主が大きな包丁でかぽーんと割ったドリアンにむしゃぶりつく。
そういう露店でたべるものは、例えば、縁日の、キャベツと、妙に分厚い生地と、妙にうっすい豚肉に、どろんとソースがかけられたお好み焼きみたいに、より美味しく感じる傾向にあるが、そのドリアンは、家で食べるものよりも美味しいという訳ではなかった。
ドリアンは精力剤の効果もあるらしいから、風俗街の近くには、ドリアンの屋台が多くあったような気がする。
大概のスーパーマーケットにも、ドリアンの山があり、たまに、むき身がパック詰めにされて売られていて、それを買って帰ったこともあったが、甘いが、おいしくは感じなかった。
全部は食べきれなかったから、それを冷凍庫に入れておいたのである。そして、凍ったものは、美味しかった。でろんとした、少し硬めのアイスクリームのような。味はバナナを凍らせたものに近かった。
ドリアンアイスなるものもあり、形状はごく彩色のアイスクリームであったが、においはあのにおいだった。
ドリアンについての記憶を掘り返してみるけれど、やっぱり、面白くないものしか出てこない。ドリアンの面白い記憶を求めて……